夏休みが始まって1週間。 月曜日は、藍子ちゃんとプールに行った。 火曜日は、藍子ちゃんと奈々子ちゃんと、宿題をする為に図書館へ行った。 水曜日は、皆で流しそうめんをした。 木曜日は、海で泳いでスイカ割り。 金曜日は、他校との練習試合で、隣の中学校まで試合をしに行った。 土曜日は、丸一日部活に精を出した。 日曜日は、部活が終わった後に皆で花火をやった。 たった一週間で私は夏休みを漫喫してしまった。元々、毎日誰かと忙しなく遊ぶのが苦手な私は、そろそろ1人の時間が欲しいと思っていた頃だった。 しかし、勉強をする気にはならず、自主練習をする気にもならなかった。それ以外には既にする事がなく、私はぶらぶらと街中をあるいている。外を歩いている人間なんて、私か海に向かおうとしている小学生の子達か観光客しかいなかった。 ふと、日焼け止めを塗っていない事を思い出して慌てて日陰にへ駆け込む。近くのお店で日焼け止めをかわなくちゃ。そう思って鞄に手を突っ込んで財布を引っ張りだすが、中には百円玉が3枚入っているだけだった。 日傘を開き直して、そろそろお昼の時間になる気がしたので足早に帰路につく事にした。無計画に家を出るものじゃあなかったと後悔しながら、強い日差しの中を歩く。きっと今日お風呂に入ったら全身がぴりぴりするに違いない。 財布の中に残された300円を思い出して、帰りにアイスでも買って帰ろうかとのんきに考えていた時だった、真横から近づくきゃっきゃっと小さな子達が騒ぐ声がして足をとめる。 浮き輪やスイカ、シャチが視界を遮って目の前を横切って行く。去った先をみつめれば、小さな子供達がはしゃぎながら海へと向かっていた。その後を追うようにパラソルを担いだ少年が通り過ぎてゆく。 「あ、」 私は日傘を少しずらして、しっかりとその少年の後ろ姿を確認する。 学校で斜め前に座っている、彼だ。名前は確か、知念くん。一年生の誰よりも背が高くて、授業になるとその高身長が私の視界を邪魔してまともにノートを取らせてくれない彼だ。 声を交わした事は一度もない。 自分が声を出した事も気づかなかった私は、彼がこちらを振り返った事に驚きを隠せなかった。黒い髪の毛を揺らして、こちらを小さな細い目で見た。 自分の足下に転がるスポーツドリンクに気づいたのは、彼があたふたと彼自身の持ち物をチェックし始めた時だった。やっぱり変な子、とその彼の挙動をみて思った。 意地の悪い私は、拾い上げたスポーツドリンクを彼に向かって差し出した。 両手一杯の手荷物を持った彼は差し出されたスポーツドリンクを手にしようとした瞬間、脇に抱えていたパラソルが腕による圧力を失って焼けたコンクリートに落下した。 あまりにも思った通りの事が起こってしまい、私はつまらないと思う。次に彼はなにをどうするのだろうと、何をする事もなくただ見ている。 ありがとう、も言わない彼に対して少し苛立ちを感じ始めた。私が彼の事を知っているぐらいなんだから、彼だって私の事を名前までは知らないにしても、記憶にはあるはずだと思っていたから余計に。 「知念くん、手伝おっか?」 もだもだと、手荷物をどうにか持って動けるようにしゃがんでまとめる彼を見下ろしながら私は日傘を閉じた。パラソルを拾い上げ、スポーツドリンクを手にして子供達がかけていった方向に歩き出す。 知念くんは、後ろで誰だろうって顔しながら歩いているに違いない。なんだかこちらから声をかけた事が悔しかったけど、あのまま放っておいたら要領の悪そうな彼は夜になるまであそこでああしている気がして手を差し出してしまった。 「にふぇえでーびる。」 そういって海に着いた時、彼は私からパラソルを受け取って浜に突き刺した。その場に出来た日陰に紫外線から逃れるべく直ぐに入り込んでしゃがんだ。さっきまで熱されていた砂から熱い空気が下から送られて来る。細かい砂が、サンダルの間をぬって足の指の間に入り込んで来る。熱い。ちくちくとする砂が混じった風が紫外線で敏感になった私の肌を刺す。 肩にかけていたクーラーボックスを置いてそれに腰を下ろす知念くん。ビニールバッグの中からタオルを引っ張りだして私に差し出した。 「スポーツドリンク、もらっていい?」 「今新しいやつ出すさあ、」 その言葉を聞くより先に、私はキャップをあけて口をつけた。 落としたり転がされたスポーツドリンクは、ぬるくて最高に美味しいとは言えなかったが、それでも水分を欲していた喉には十分すぎる供給だった。 「さん、それ、俺の飲みかけさあ。」 クーラーボックスから取り出したばかりの濡れたスポーツドリンクを左手に持った知念くんが言った。 私は、やっぱり悔しくなって自分の顔が熱くなるのを無視してそのスポーツドリンクをいっきに飲み干した。 嘘をついていた |